不確かな side:スネーク身から出た錆。
そんな言葉があったっけ。
単に己のしでかしたことのツケがまわってきただけだってこと。
そんなことはわかりきってる。
だけど心のどっかで
「なんで俺がこんな目に」
なんて思ってる俺は
やっぱり性格悪いのかな。
往生際が悪いってことはわかってる。
俺ってさ、今まで俺のこと追っかけてくるストーカーみたいな奴ら、ずっと笑ってきた。
未練がましいって。
もう飽きた、会う気もおきないってはっきり言ってんのになんでさっさと去っていかないのかって疑問に思ってたくらいだ。
相手が自分に興味ないってはっきりしめしてんのに、もういらねぇってきっちり拒絶してるってのにそれでも追っかけようとする気持ちなんて全然わからなかった。
そいつらの滑稽な姿は俺にとっていい暇つぶしだったし、正直自分にとって既にどうでもよくなった奴らが必死になるってこと、一種の娯楽みたいに思ってた。
自分自身の性格なんてわかりきってたからいつか自分が逆の立場になるかもなんて考えたこともなかったし考える必要もないと思ってた。
何かや誰かにそんなに執着することなんてスクラップになるときまで全く訪れないんだろうと漠然と考えてた。
今日一日、明日一日を楽しく過ごせればそれでいいとか自分の存在してる意味すらその程度にしか考えてなかった。
そんな俺だったはずなのにどこで何がずれたのか、今は日がな一日ジェミニちゃんのことばっかり考えてる。
考えてるっていうか実際に見てる。
サーチスネークで。
几帳面なジェミニちゃんの毎日は本当に規則正しい。
そんな規則正しい生活リズムの中で、俺は心底ジェミニちゃんにとって異物だったんだろうことは想像に難くない。
どんな酷いことしてきたかってことに対する自覚はある。
倒れるほどのストレス与えてしかもそのストレスの与え方ってのがまた…
単なる嫌がらせとかだったらまだとりかえしもついたかもしれないけど、他人に触れることすら嫌がるような潔癖症相手に対して無理矢理襲って犯してんだもんな。
取り返しどころかとりつくしまの片鱗すら見つからない。
泣いて嫌がるジェミニちゃんを玩具みたいに嬲ってきたツケは今こうして思いっきり回ってきてるって訳で。
それでも未練がましくジェミニちゃんの姿を日々こうして追っかけてるのって、こういうのを執着っていうんだろうなきっと。
自分がいままでしてきたこと、こんな風に身をもって知らされる羽目になるとは思いもしなかったけど。
今でも、性懲りもなく触れたいと思うし抱きしめたいと思う。
そして触れればきっと組み敷きたいって衝動が抑えられなくなると思う。
触れるどころか視界に入る権利すら失ってるってのに。
本当にバカだったと思う。
取り返しのつかないことってのが存在してるってのは知ってたはずだったのに体感するまでそれに気づかなかったなんてバカ以外どういっていいのかもわかんね。
俺はその代償にジェミニちゃんの傍にいる権利を失った。
俺が居ないということが一番ジェミニちゃんのためになるなんて。
会いたい、触れたい、出来るならもう一度この腕に抱きしめたい。
けどそうしたらきっと今度こそジェミニちゃんは壊れてしまうかもしれないから。
倒れるほどに心をすり減らさせた俺にできることなんて何も無い。
毎日毎日サーチスネークでジェミニちゃんの姿ばっかりおいかけて。
こんなことやめなきゃいけないってわかってるのにやめられない。
少しでもジェミニちゃんの負担にならないように、俺の姿をジェミニちゃんが見なくてもすむように行動を把握して偶然にでもすれ違ったりしないようにするためだなんて大義名分までこじつけて。
それが絶対に会う可能性がない場所や時間であっても。
さすがに自室にいるときに追うことはしないようにしたがそれ以外の時はジェミニちゃんがどこで何してどんな表情でいるかをずっと追ってる。
計画ではこうして少しずつジェミニちゃんの前から姿を消して、ただ任務なんかでどうしても顔を合わせる必要があるときはできるだけ他の奴らと一緒になるように気をつけて決して二人きりにならないようにしてジェミニちゃんを安心させて、そうすればジェミニちゃんは元通り元気になれるはずだった。
大嫌いな俺の顔を見ずにすむし、仕事にも一切の支障は与えない。
本当に計画通り上手くいってた。
俺の行動のほうはって限定されるけど。
俺が居なくなって、元気を取り戻して。
俺の行動によって、俺と会わないことによってジェミニちゃんはそうなるはずだった。
そう思っていたのに、俺の計画通りにジェミニちゃんは元気になっていかない。
誰かがいるところではいつも通り元気に振舞うようになったのに一人になるとため息ばかりで沈んでいるようだ。
元気になるどころか日に日に元気がなくなっていくようにしか見えなかった。
部屋ものぞいて、ホロとの会話も盗み聞けば原因も分かるのかもしれない。
だがもうそれは俺なんかに踏み込むのは許されない領域だと思えてそこまではどうしてもできなかった。
ジェミニちゃんが今何を思って、何を願っているのか。
俺が目の前から消えるだけじゃ飽き足らないのかもしれないな。
存在しているというそれ自体が、負担になってるって可能性だってある。
きっついよな…
一番大好きな相手を一番苦しめてるのがほかならぬ自分自身の存在だなんてさ。
それでも、わかっていてもジェミニちゃんの姿を追うことはやめられなかった。
少しでも元通りに元気になってもらえるような何かヒントでも見つかれば、罪滅ぼしとはいかないまでもこんな俺でも何かやれることがあればと…
いやそれはただの言い訳なんだろうな。
本当はただ俺がジェミニちゃんを見ていたかっただけ。
だから今日も見てる。
廊下を歩いてメインコントロールルームへ向かうジェミニちゃん。
俺のやってることって、本当にストーカーでしかないよな。
自覚すればやめられるならストーカーなんて存在しやしないわけで。
どうしようもない自分自身にただ嫌悪感を感じても何をどうすることもできない。
まさか自分がこんな風になるなんて思ってもみなかったよなぁと歩いてるジェミニちゃんをただぼんやりとサーチスネークで追っていたそのときだった。
ジェミニちゃんは急に壁に寄りかかって膝をついた。
ただ廊下を歩いてただけ。
障害物もなかったし重い物を持っているといった風でもなかった。
そしたら考えられるのはまたひょっとして倒れたんじゃ…
そう考えたらもういてもたってもいられなかった。
嫌われてるとか姿を見せないようにするとかそんなの全部忘れてジェミニちゃんの下に走ってしまっていた。
「ジェミニちゃん!」
そう声をかけながら助け起こそうと肩に手をかけたらジェミニちゃんはゆっくりとこっちを振り向いた。
それはスローモーションのようで、ただ振り向くというそれだけの仕草だったのにとてつもなく長い時間にも感じた。
俺の声に反応したということと、振り返る程度の動作はできているということで完全に落ちているわけじゃないんだと少しは安心した。
ジェミニちゃんは驚いたような表情で暫く俺の顔を凝視したままそれ以上動こうとはしなかった。
いや、動けなかったのかもしれないが今ここでそれを確かめるすべはなかった。
調子が悪いならメンテルームへ行こうと声をかけようとして、ぎょっとさせられた。
俺の顔を見つめて動かないまま、そして立ち上がることもないまま、ジェミニちゃんはその両の瞳からぽろぽろと涙をこぼし始めた。
まずい。
咄嗟に浮かんだ考えはそれだった。
この状況を誰かに見られたら多分俺が倒れそうなジェミニちゃんを助けに来たというよりは俺がジェミニちゃんを泣かせたって思われそうな気がする。
本来はこの状況で思うべきことじゃないかもしれないがこれが俺ってやつなんだからしょうがない。
昔っからバレたらヤバいことを隠蔽しようとするときの反応速度のよさだけはピカイチだったと自負している。
気づいたら俺はジェミニちゃんをだき抱えたまま自分の部屋へと向かっていた。
不具合が出たのであればメンテルームへ向かうべきだったのかもしれない。
だが、この時はメンテルームへ運ぼうという気がなぜか起こらなかった。
泣かれたのを隠蔽しようという気持ちがあったのも否定はできないが、なんとなく、本当になんとなくだけどどっかで単なる不具合なんかじゃない気がしていたからとか言い訳してみる。
部屋について習慣で鍵かけて、泣いてるジェミニちゃんをよっこらしょとベッドに座らせて、ふーと一息ついてジェミニちゃんが泣きながら震えてるのを見てはじめて今の自分の行動がどんなことだったか冷静に振り返ることができた。
あーそうだよな。
俺の顔も見たくなかったんだもんな。
そんな相手にいきなり抱きかかえられて部屋に連れ込まれたら…まぁ普通は今までされてきたことされんじゃないかって思うよね。
どうやってこの状況を打破するかねこれは。
とりあえず大きめのタオルをジェミニちゃんにかけてあげた。
俺の部屋にあったタオルなんてジェミニちゃん嫌かもしれないけどとりあえず襲う意思はないってとこだけはわかってもらわないと…
「ジェミニちゃん、いきなり触っちゃってごめんね。またジェミニちゃんが不調になったのかと思って…」
俺の言葉、聞こえてるんだろうか。
ジェミニちゃんは泣いて震えるばかりでさっきから全然状況が変わってない。
「今更信じられないかもしれないけどさ、もう、無理やり襲ったりしないから」
なんだろうなぁこれ。
死ぬほど好きな相手が目の前にいて泣いて震えてんのに、抱きしめることすらできないなんてさ。
まぁ泣いて震えてる元凶が俺なんだからしょうがないかもしれませんけどね。
「まだ、俺のこと怖い?嫌い?」
わかってることであったとしてもそれでジェミニちゃんに目の前で思いっきり肯定されたら立ち直れないくらいへこむくせについ聞いてしまった。
話を聞いてもらうために顔を覗き込んだらジェミニちゃんがひときわ大きくビクッと震えた。
やっぱそうだよな。
俺だって俺がジェミニちゃんにしたことと同じことされたらやってきた相手壊したいくらい嫌いになれる自信がある。
ってーか多分余裕で壊してると思う。
ジェミニちゃんみたいにみんなの為になんて我慢するタマじゃないし。
でもなー、とにかく泣き止んでもらうくらいはできないかな。
本当にどこか悪いなら心配だし。
「変なこと聞いてごめん。それより急に倒れたみたいだったけど、ジェミニちゃんどっか調子悪い?」
俺の口調と態度でいきなり襲われることはなさそうだと思ってくれたのかジェミニちゃんの震えはとまってた。
けど涙はポロポロとこぼしたままだった。
俺の問いかけに対して小さく、ゆっくりとジェミニちゃんは首を振った。
「じゃあ疲れてる?それなら少し休憩したほうが…」
ジェミニちゃんは何も答えてくれない。
ただ小さく首を振るばかりだった。
それから暫く手を変え品を変えジェミニちゃんが倒れた理由を聞き出そうとしたけど何を聞いても何も答えてくれなかった。
俺なんかには理由を話せないってことか。
壁に寄りかかって倒れそうになるほど調子を崩してるってのに?
そうならないようにせっかく俺がジェミニちゃんから離れてたのに結局意味はなかったってことか。
じゃあジェミニちゃんが倒れた原因は俺がジェミニちゃんに無理を強いてたってことだけじゃないのか。
もちろんそれも負担だったろうけどそれ以外にも原因はあったってことか。
ジェミニちゃんは几帳面な性格だ。
この研究所の管理だって大変だろうけどそれが倒れるほどまで負担になってるとは考えにくい。
だからこそ俺はジェミニちゃんが倒れた原因は自分で、好きなときに好きなだけめちゃくちゃに犯してたからだって思ってた。
でも離れていても、顔すらあわせないように気をつけていても、こうしてジェミニちゃんは倒れた。
傍にいてもいなくてもジェミニちゃんは倒れて、泣いて、壊れていくのか。
どっちでも同じなら、俺が必死で我慢してジェミニちゃんに会わないようにする意味なんてないよな。
もともと我慢なんて性にあわなかったんだ。
傍にいても離れていても、ジェミニちゃんが泣いてしまうなら傍にいて涙を止めてやりたい。
倒れそうなときは支えてあげたい。
よし、やめだやめ。
もう我慢なんてしない。
やっぱ俺には我慢なんて似合わない。
「ジェミニちゃん」
なるべく優しい声で、ジェミニちゃんに呼びかけた。
ボロボロと涙をこぼしながらも俺に視線を合わせてくれた。
そういうとこは律儀だなと思う。
こんな状況下においてもどこか理性的なところを保ってるのか。
そういうところもまたジェミニちゃんの魅力なんだって今なら気づけたのに。
「このまま言わないつもりだったけどやめた。俺やっぱり我慢とか自己犠牲とかそういうの性に合わないってよーくわかった」
何を言い出すのかと、不思議そうな表情をしながらもやっぱり涙は止まらないみたいだった。
ジェミニちゃんはなんで泣いてるんだろう。
もうなんでもいいや。
俺は俺の言いたいことをただ言うだけだ。
「ジェミニちゃん、俺と付き合おうぜ」
「え…?」
さすがにびっくりしたのか反応があった。
驚きのあまり涙も止まったのかそのきれいな瞳を瞬かせるたびにこぼれ残った涙が頬をつたっていた。
「俺はこんなだからまたジェミニちゃんのこと泣かせることもあるかもしれないけど、少なくともいつも傍に居てやれる。寂しい思いはさせない。だからさぁジェミニちゃん。俺のものになってよ」
「う…そ…」
「嘘でも冗談でもない。俺、これでも結構一途なんだぜ?」
ジェミニちゃんは固まってた。
なにいってんだか理解できませんって感じの顔で。
そりゃそうだろうなぁ。
今まで散々好き勝手してきた相手にいきなりこんなこといわれてもね。
どうせまた自分をおもちゃにして遊ぶつもりなんじゃないか、今回の言葉もその一環なんじゃないかって思われたって何の不思議もない。
けどなんの勝算もなくこんなことを言い出したわけでもない。
ジェミニちゃんは普段どおりの日常を保とうとする思いが非常に大きい。
だから強く言えばサード研究所の平穏のために首を縦に振るんじゃないかと、そう考えたわけ。
即否定の言葉を俺に向かって吐かなかったのがそのいい証拠だろう。
もう、一押しかな。
呆然としているジェミニちゃんをそっと抱きしめてみた。
あー…久しぶりだ、ジェミニちゃんに触れるの。
やっぱりもう、放したくない。
「今まで俺がジェミニちゃんに何してきたかってのは理解してるつもりだしそれを許してくれとは言わない。償いも込めてジェミニちゃんのこと、いっぱい大事にするから」
もう泣かせないよとか、疲れて倒れたりしないよう仕事も手伝うからとか、いいわけめいたようなことをいくつもいくつも並べ立てた。
ずるい?
そんなのわかりきってる。
兄弟機である限り、ジェミニちゃんが俺のことを強く拒絶することができないことをわかってこういうことをする自分の卑怯さに乾いた笑いが漏れそうだ。
ジェミニちゃんだって今のままじゃまずいことはわかってるはず。
今現在の管理体制に問題がなくても頻繁に倒れるなんてことがあればセカンズが首を突っ込んでくるのも時間の問題だろう。
ぶっちゃけこのタイミングでなくとも俺がジェミニちゃんに付き合ってくれよって言えばジェミニちゃんは首を縦に振るだろうと思ってた。
俺といさかいを起こすよりも、付き合うという行為で問題が解決するのであればそのほうがいいと判断しそうだから。
そう、そうやって首を縦に振ると思ってたから今まで近づかないようにしてきたし何も言わなかった。
でもなぁ、あんな目の前で崩れて泣かれちゃったらさ、我慢なんてできないよね。
今までの俺は最低最悪だったかもしれないけどさ、これから取り戻していけばいいんだし。
マイナススタートにはなるけどこれから尽くしていけば何とかなるだろ。
ジェミニちゃんを愛してるって気持ちはホンモノなんだし。
仕事だって俺が手伝えば相当負担が減るはずだし。
だからねぇ、ジェミニちゃん。
ほら、早く。
「ジェミニちゃん?」
ジェミニちゃんは俺に抱きしめられたまま逃げようともせず、促すように名前を呼んでやったら小さくうなづいた。
ああ、うん。
ま、逃がすつもりも毛頭ないんだけどね。
「これでジェミニちゃんはもう、俺のもの。これからよろしくな」
ジェミニちゃんが手に入った。
すっげーうれしくてついにやけてしまう。
反応が見たくて顔を見たら、ジェミニちゃんもなんともいえないような笑顔を浮かべてた。
「はい」
ちっさく返事した。
そのなんともいえない笑顔のままで。
大丈夫、わかってる。
ジェミニちゃんの心は俺みたいなやつには手に入れることはできないものなんだって。
全ては手遅れで、チャンスすら失われてるんだってこと。
でもいい。
仮初でもジェミニちゃんが手に入ったのなら。
もう、誰も近づけさせない。
そしたら他の奴らだって、俺と同条件だろ?
誰一人として、ジェミニちゃんの心が手に入るチャンスなんてないし、絶対に与えない。
それならほら、ジェミニちゃんの機体だけでも手に入れた俺が、ジェミニちゃんに一番近い場所っていえるよね。
これからはもう泣かせない。
だから、今日、ジェミニちゃんが泣いた意味はもう考えない。
知りたくも、ない。
おしまい
スネークの一番の失敗はジェミニは自分のことを嫌いだという前提ですべてを進めてしまったこと。
作戦を立てる上で一番大事なのは先入観や思い込みを排除することで、それはスネークにとって得意分野のはずだったのに本当に好きな相手に対しては盲目になってしまってうまくいかない。
そんなスネークのジレンマを表したかったお話でした。
きちんとジェミニに対して好きだということに気づいたということを説明すればよかったのかもしれませんが、ある意味パニック状態のジェミニに向かってそれを伝えてもうまくいかなかったかもしれませんね。
それにそれだとあまりスネークらしくない感じになってしまいそうだったのであえて言葉足らずにしてしまいました。
ジェミニ視点の話もありますので、スネーク編を先に読まれた方はぜひジェミニ視点の話もみていただけたらと思います。
お読みいただきましてありがとうございました。
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